製造業において、部品や製品の精度は極めて重要です。そのため、製造方法の選択は慎重に行う必要があります。本記事では、切削加工と鋳造という二つの主要な製造方法に焦点を当て、それぞれの特徴、長所短所、そして両者を組み合わせた効率的な生産方法について詳しく解説します。

切削加工と鋳造の基本

切削加工とは

切削加工は、工作機械を使用して材料を削り取り、目的の形状や寸法に仕上げる加工方法です。旋盤、フライス盤、ボール盤などの様々な工作機械を用いて行われます。

鋳造とは

鋳造は、溶かした金属を型に流し込み、冷却・固化させることで目的の形状を得る加工方法です。砂型鋳造、ダイカスト、精密鋳造など、様々な方法があります。

寸法公差の比較

寸法公差は、製品の精度を示す重要な指標です。切削加工と鋳造では、実現可能な公差に大きな違いがあります。

切削加工の寸法公差

切削加工は非常に高い精度を実現できることが特徴です。

  • 一般的な公差範囲:±0.01mm〜±0.05mm
  • 高精度な部品製造に適している
  • 複雑な形状や微細な加工が可能

切削加工では、工作機械の精度や工具の選択、加工条件の調整によって、極めて厳しい公差を達成することができます。そのため、精密機器や航空宇宙産業など、高い精度が要求される分野で広く利用されています。

鋳造の寸法公差

鋳造の寸法公差は、JIS B 0403:1995に基づいてCT1からCT16までの等級が設定されています。

  • 砂型鋳造:一般的にCT9〜CT12程度
  • ダイカスト:CT4〜CT7程度
  • 鋳物の状態では±1.0mm程度の誤差が生じることがある

鋳造では、金属の収縮や型の精度などの要因により、切削加工ほどの高精度を実現することは困難です。しかし、大量生産や複雑な形状の一体成形には適しています。

表面粗さの比較

表面粗さは、製品の品質や性能に大きな影響を与える要素です。切削加工と鋳造では、得られる表面粗さに顕著な差があります。

切削加工の表面粗さ

切削加工では、非常に滑らかな表面仕上げが可能です。

  • 一般的な表面粗さ:Ra0.1μm〜Ra0.8μm
  • 高品質な仕上げが要求される部品に適している
  • 工具や加工条件の調整により、さらに細かい制御が可能

切削加工による優れた表面仕上げは、摩擦低減や気密性向上が必要な部品、あるいは美観を重視する製品に適しています。

鋳造の表面粗さ

鋳造では、比較的粗い表面仕上げとなります。

  • 一般的な表面粗さ:Ra3.0μm前後
  • 多くの場合、追加の機械加工が必要
  • 鋳造方法や材料によって表面粗さは変動する

鋳造品は、表面に鋳肌と呼ばれる特有の粗さが生じます。そのため、高い表面品質が要求される部分には、鋳造後に切削などの追加工を施すことが一般的です。

生産性とコストの比較

製造方法の選択において、生産性とコストは非常に重要な要素です。切削加工と鋳造では、これらの面で大きな違いがあります。

切削加工の生産性とコスト

  • 高精度・高品質の部品製造が可能
  • 一品一様の生産や少量生産に適している
  • 大量生産の場合、コストが高くなる傾向がある
  • 材料の無駄が多い(削り取られた部分は廃材となる)

切削加工は、高い精度と品質を実現できる反面、加工時間がかかり、大量生産には不向きな面があります。また、素材から削り出すため、材料の無駄が多くなりがちです。

鋳造の生産性とコスト

  • 複雑な形状の一体成形が可能
  • 大量生産に適している
  • 一度金型を作れば、低コストで量産が可能
  • 初期投資(金型製作)のコストが高い

鋳造は、金型さえ準備できれば、複雑な形状の部品を効率的に大量生産できます。しかし、少量生産の場合、金型製作のコストが大きな負担となる可能性があります。

鋳造+追加工による高効率生産

切削加工と鋳造、それぞれの長所を活かし、短所を補完する方法として、鋳造と追加工(主に切削)を組み合わせた生産方式が注目されています。

鋳造+追加工の利点

  1. 複雑な形状を一体成形で効率的に生産(鋳造)
  2. 精度が要求される部分のみを追加工(切削)
  3. 生産コストの削減
  4. リードタイムの短縮
  5. 材料の無駄を最小限に抑制

具体的なプロセス

  1. 鋳造で完成品に近い形状を作成
  2. 高精度が要求される部分のみを切削加工
  3. 必要に応じて表面処理や熱処理を実施

この方法により、鋳造の効率的な量産能力と切削加工の高精度を両立させることが可能になります。

適用事例

  • 自動車部品:エンジンブロック、シリンダーヘッドなど
  • 産業機械部品:ポンプケーシング、バルブボディなど
  • 電子機器筐体:放熱性と精度が要求される部分

製造方法選択のポイント

製品設計者や製造技術者は、以下の点を考慮して最適な製造方法を選択する必要があります。

  1. 要求される精度と表面品質
  2. 生産数量(少量生産か大量生産か)
  3. コスト制約
  4. 材料特性
  5. 製品の複雑さ
  6. 納期

これらの要素を総合的に判断し、場合によっては切削加工と鋳造を組み合わせるなど、柔軟な製造戦略を立てることが重要です。

武杉製作所の「鋳造+追加工」による高効率量産体制

切削加工と鋳造は、それぞれに長所と短所を持つ製造方法です。切削加工は高精度・高品質を実現できますが、大量生産には不向きです。一方、鋳造は効率的な大量生産が可能ですが、精度や表面品質では劣ります。

これらの特性を理解し、適切に組み合わせることで、より効率的で高品質な製造プロセスを実現することができます。特に、鋳造と切削加工を組み合わせた方法は、多くの産業分野で注目されています。

武杉製作所ではこのような他工法からの工法転換に多くの実績があります。精度、強度、コストなどお客様の抱える課題に合わせた最適な工法転換をいたします。

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